大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和31年(う)265号 判決 1956年9月26日

控訴人 被告人 姫城源四郎 外二名

被告人姫城源四郎に対し大根占区検察庁検察官

検察官 円藤正秀

主文

被告人全員の本件各控訴、および被告人姫城源四郎に対する検察官の本件控訴は何れもこれを棄却する。

理由

被告人等全員の弁護人福沢文夫の陳述した控訴趣意は弁護人徳田禎重名義の各被告人別控訴趣意書に記載のとおりであり被告人姫城源四郎に対する検察官の控訴趣意は大根占区検察庁検察官事務取扱検事山根静寿名義の控訴趣意書に記載したとおりであるからここに之を引用する。

弁護人の控訴趣意第一点及び第三点について。

論旨は原判決は「被告人は判示県議会議員選挙に立候補した浜崎隼人の選挙運動者であるが松元佐兵衛、川辺盛康が同候補者に当選を得しめる目的で投票取り纏め費用及び選挙運動報酬として一括供与するものであることの情を知りながら同人等から現金の供与を受けた」という事実を認定しその供与を受けた現金全額について被告人を公職選挙法第二二一条第一項第四号の受供与の罪に問擬処断した。しかし被告人が同候補者のため選挙運動方依頼を受けた出張先は選挙事務所所在地大根占町から離れた遠隔地であるから之に要する往復自動車賃弁当料及び宿泊料等を考慮して之らの実費の前渡しを受けたものである。仮りに受供与金額が之らの実費でないとしても当該出張先への往復交通費が幾何を要するか位のことは当該地方居住者には顕著な事実であるばかりでなく、少くとも証拠によつて之が明らかとなつた以上実費部分と運動報酬部分ははつきり区別できるのであるから両者を分別して報酬部分のみについて受供与の罪を認むべきである。然るに原判決が叙上と異なる事実を認定し且つ被告人の受供与金全額について受供与の罪に問擬したのは事実を誤認し且つ同法第一九七条の二の解釈適用を誤まり受供与金全額につき有罪としたことについて理由不備の違法があるというにある。しかし判示松元、川辺が被告人に対し浜崎候補のための選挙運動を依頼して供与した現金はその使途を指示限定せず被告人の裁量に一任したもので該運動をするについて要する交通費等の法律上許容された実費と運動報酬とを区別することなく両者を包括した趣旨のものであつたこと従つて当時後日の精算報告及び領収証の作成交付をも要求していないこと、被告人もその情を諒知しながらその現金を貰い受けたことは原判決に挙示引用の証拠に徴し明らかである。かくの如く法律上許容された交通費等の実費部分と運動報酬部分とを分別することなく両者を包括する趣旨で現金が授受されたときはその授受金額の全額について授者に対しては供与の罪で受者に対しては受供与の罪で処断すべきものと解するのが相当でありそうして右両罪は現金の授受と同時に既遂となるのであるから、爾後実費部分と報酬となる部分とが分明となつたとしても右の解釈に消長を来すものではない。記録を精査するも原判決の事実の認定に誤はなく証拠の取捨、証明力の判断に経験則違反等不合理の点は存せない、又法令の解釈適用の誤もなければ理由不備の違法もないから論旨は理由がない。

控訴趣意第二点について。

論旨は原審裁判官は判決宣告の際被告人に対し「選挙に関する金銭の授受は出納責任者の承諾を得且つ之を出納簿に記載し領収証を徴さなければならぬ、しかるに本件のみならず浜崎候補の運動員に対する支出は右の手続を経てない又被告人が運動のため旅行したことも認むるが果して正当の運動をしたか不明である」との判決理由を宣明したが前記の如き出納上の手続を経ない場合には違反として公職選挙法第二四六条第一項第四号及び第五号を以て処断さるべきものであつて右処罰規定に該当する金銭の授受が全部本件の同法第二二一条に違反する行為と認むるは立法の趣旨を誤解した判断であるというにある。しかし同法第二四六条第一項第四号及び第五号に該る罪と同法第二二一条第一項各号に該る罪とが所論のような異なる性質の犯罪であることは勿論であり原審裁判官が判決宣告の際果して所論指摘の趣旨の説示をしたかどうかの点は記録及び原判決書の上に記載がないので之を知るに由ないのであるが仮りに右の様な説示をしたとすればそのような出納上の手続を経ていないことを以て被告人を買収犯として断罪するための一つの情況証拠とした趣意を宣明したものと理解すべきであつて右の片言を捉えて直ちに前記各法条の趣旨を誤解したと断ずるのは早計であり却つて原審裁判官が該法条を誤解したものでないことは判決書中の罪となるべき事実摘示と之に対する法令の適用を見れば自ら明らかである。論旨は理由がない。

控訴趣意第四点について

論旨は公職選挙法第一九七条の二は仮令選挙運動従事者は選挙運動のため自己の自転車使用、手弁当持ち、親族知人方の無料宿泊等現実に交通費、弁当料、宿泊費等の実費を必要としなかつた場合でも法定基準内の之ら実費の前渡し又は事後弁償を受けうる趣旨で規定されたものであるところ被告人の支給された実費は右基準にも達しない少額であるというにある。しかし同法条の趣旨は選挙運動従事者は運動をするについて将来又は過去において具体的且つ現実に必要とし又必要とした交通費、弁当料、宿泊費等の実費で同条所定の基準内のものに限り弁償を受けうるに過ぎないと解すべきであつて論旨は独自の誤れる見解を前提とするもので採用することができない。

控訴趣意第五点について

論旨は原判決は本件において被告人及び弁護人において本件金銭の授受は選挙運動するための実費の前渡であり該運動の報酬でないから犯罪は成立しないと主張したのに証拠の標目のみ掲げてこれに対する判断をしないのは刑事訴訟法第三三五条第二項に違反する違法があるというがかくの如き主張は単なる公訴事実の否認であつて同条にいう法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実の主張に該らないから、原判決がこれに対する判断を示さなかつたのはむしろ当然であつて、論旨は理由がない。

被告人姫城源四郎に対する検察官の控訴趣意第一点(事実誤認)について、

所論は原判決が本件公訴事実中被告人姫城源四郎が昭和三〇年四月一三日頃原判示選挙に際し松元佐兵衛、川辺盛康から原判示(一)(二)と同趣旨の金六百円の供与を受けた事実につき無罪の言渡をしたことは事実を誤認したものというに在るから記録について調査すると同被告人の検察官並びに司法警察員に対する供述調書によると論旨同趣旨の会員の供与を受けた事実について自白が存するけれども原判決も説示しているとおりこれを補強するに足る証拠はない。即ち供与者の立場にある松元佐兵衛は検察官の取調に対しても全くその点は触れておらず原審公判廷における証言にても原判示(一)(二)の金銭授受の事実については明確に供述しているに拘らず所論の金六百円については記憶がないと供述しており川辺盛康は原審証人として「或は渡しているかも知れないが、記憶がない」と述べ、検察官に対する供述において原判示(一)の金三百円(二)の金千円の授受につき明確な供述をしているに拘らず所論の金六百円の授受については「渡したことがあるように思う」と言葉をにごし明確な供述をしていない。従つて右両名の供述の経過並びにそのあいまいな点からみると右の供述を以てしては所論の「自白の真実性を保障し」得る程度に至らないと解すべきでありその他記録上右被告人の自白を補強するに足る証拠を発見しない。それで原判決が該事実につき自白以外にこれを補強すべき証拠なく結局犯罪の証明がないものとして該部分につき無罪の言渡をしたことは相当であつて論旨は理由がない。

同第三点(法令適用の誤)について、

所論は要するに選挙運動の報酬と実費がその割合の定めなく包括的に授受せられた場合にはその収受金全額を没収追徴すべきであるのに不拘原判決が右収受金の内一部実費として費消した分を控除して追徴を命じたことは公職選挙法第二二四条の法意を誤り解したものであるというに帰する。しかしながら公職選挙法第一九七条の二は選挙運動者に実費の支給を許容していることは明らかであり同法第二二四条においては「収受し又は交付を受けた利益」を没収又は追徴すべき旨規定しているのである。凡そ選挙運動をなすについて交通機関等を利用しなければならない場合には必然的にその交通費が入用でありかかる必要実費を選挙運動者自己の出捐を以つて支弁させることは過酷に過ぎ且実情に適しないとの見地から同法第一九七条の二の規定が設けられたのであつて右実費に充てられる目的で授受せられた選挙運動の費用が同法第二二四条にいう収受又は交付を受けた「利益」と解せられないことは当然である。しかして初めから実費と報酬とを分別して金員が授受せられた場合には前者については合法性あるものとして既に起訴適格を欠き後者のみについて起訴すべきものと解せられるところ右後者の金員中より受供与者が実費を支弁したとしてもそれは受供与者が受けた報酬の一部につき自由処分したものであつて受供与全額の報酬たる性格につき変りはなく同法第二二四条の関係においては全額を収受した利益と解すべきであるが機動性を尊重する選挙運動の実際においては必要とする実費の限度を予見することは困難であり事実上実費と報酬とを分別することなく包括的に供与せられる場合が多いと解せられるところかような場合には供与者においても受供与者においてもその必要とする実費の限度においてはこれを受供与者の利得に帰せしむる意思は初めからなかつたというの外はなくその限度においては同法第二二四条にいわゆる収受した利益ということはできないのである。従つて実費と報酬とを一括し分別することなく供与した場合でも運動実費として費消せられた分が後日明確にせられたときはその範囲において受供与者の収受した利益は存しないのであるからこの部分は同法の追徴額から控除すべきものと解する。このように解することは理論上当然であつて若しそうでないとすれば仮に必要な選挙運動実費が約九千円と予想せられる場合に実費及び報酬を含めその内容を分別せずして金一万円を供与し現実に必要実費として金九千円が費消せられたことが立証せられた際においても金一万円全額を追徴しなければならない不合理に陥り且公平の観念に反する結論に到達しなければならない。原判決が実費と報酬とを一括して供与せられた金員中から現実に必要な交通費等実費として費消した金額を控除した部分だけについて追徴の言渡をしたのは右と同趣旨にいでたものであつて相当である。所論は同法第二二四条第一九七条の二の法の真意を解しないものであつて理由がない。

同第二点(量刑不当)について、

本件犯罪の回数、受供与金額、その他記録上みられる諸般の情状を綜合すると原判決の被告人姫城源四郎に対する刑の量定は相当である。論旨は理由がない。

次に職権を以つて被告人大久保繁彦に関する原判決を調査すると原判決は判示第一において被告人は(中略)村岡昭より同候補に当選を得しむる目的で投票取纏め方選挙運動の依頼を受けその費用及報酬として一括供与するものであることの情を知り乍ら右届出前である同年三月三十日頃同郡内之浦町において同人から金千二百円の供与を受け以つて立候補届出前の選挙運動を為したと判示している。しかしながら公職選挙法においていわゆる選挙運動とは一定の公職選挙において一定の議員候補者を当選させるため投票を得若しくは得しむるについて直接又は間接に必要旦有利な局旋勧誘若しくは誘導その他諸般の行為を為すことを汎称し事柄の本質上積極的に他に働きかける行動がなければならぬものと解せられるところ原判決が認定したところによると同被告人は単に浜崎候補の選挙運動を依頼せられたに止まり、且選挙運動に要すべき実費と将来運動することに対する報酬として供与を受けたに止まり投票獲得に必要且有利な直接又は間接の行為をしたことは何等認められず、又選挙運動の依頼を受けたこと、原判示同旨の金員の供与を受けたことそれ自体は右趣旨の選挙運動の範疇に属しないものと解せられるから原判決が右の事実を逮えて立候補届出前の選挙運動となし公職選挙法第一二九条第二三九条を適用したことは法令の解釈適用を誤つたものといわざるを得ないが右立候補届出前の選挙運動の罪と原判示金銭受供与の罪とは刑法第五四条第一項前段により金銭受供与の罪の一罪として処断せらるる結果となるので右の誤は判決に影響を及ぼすものとはいえないから原判決破棄の理由とはならない。

以上説明のとおり全被告人の本件控訴及び被告人姫城源四郎に対する検察官の控訴は何れも理由がないから刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 二見虎雄 裁判官 長友文士)

被告人姫城源四郎に対する検察官の控訴趣意

第一、原判決は事実の誤認があつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであり到底破棄を免れないものと信ずる。即ち、原判決は、本件公訴事実中被告人が四月十三日頃松元佐兵衛、川辺盛康から現金六百円の供与を受けた事実につき、「被告人が前記日時場所に於て右松元等より該金の供与を受けたという点について、被告人は検察官司法警察員に対し、なほ当公廷に於てもこれを自白するも被告人の右自白以外にはこれを補填する証拠がない、結局これについては犯罪の証明がない」となし刑事訴訟法第三三六条に則り無罪の判決言渡をなした。然れ共も、本件金員の供与者である川辺盛康は、(一)公判廷に於て証人として「選挙運動期間中被告人に金を渡したことがある。四月十三日頃事務所で三百円、その日の夜事務所で千円渡した」旨証言し続いて検察官の「その外その日に六百円渡したことはないか」の問に対し「検察庁でもその点を尋ねられたが或は渡しているかも知れないが、しかしその記憶がありません」旨証言し(記録第三十七丁表参照)(二)検察官に対し「四月十三日頃姫城源四郎が事務所に来てくれたので田代方面に運動に行つてくれと頼んで松元さんに相談して百円札三枚を労賃に与えた。又その日姫城さんが事務所に来たとき松元さんから千円出すように言われて松元さんから、それを姫城さんに渡して貰つたことがあると思います。これも矢張り労賃です。更に又その日かどうかしりませんが多分違う日ではなかつたかと思いますが事務所で姫城さんに六百円渡したことがあるように思います、これも労賃です」旨供述し(同人に対する昭和三十年五月二十八日附検察官調書謄本記録八六丁裏第三項参照)たのである。

所謂自白の補強証拠は「自白にかかる事実の真実性を保障しうるものであれば足りる」のであつて、右川辺盛康の検察官に対する供述並に公判廷における証言は優に被告人の司法警察員に対する「十三日頃の午前十時頃浜崎さんの家に行き玄関の間で盛康さんと語つたのです。その時盛康さんは私に『田代村方面の情報が判らんから行つてさぐつて来て下さらんか』と言われるので『それぢや行つてさぐつて見ます』と承諾しますと盛康さんは『それでは自動車賃です』と言つて裸のまま百円札を三枚私に出されますので……中略……それを貰つて浜崎さんの家を出て田代行きのバスに乗つた……中略……田代から帰つて来て夕飯を済ませ浜崎さんの選挙事務所に結果を報告に行きますと川辺さんは居らず松元佐兵衛さんが居られたので昼の事を語つたのです。……中略……その結果を聞いておられた松元さんは『それぢやいけないから、もう一ペんきばつてくれんか』と言われますので私は承知したのです。その時松元さんは私に千円礼一枚を差出されたのでそれを受取り貰つたのです。……中略……松元さんと別れて帰ろうと思つて玄関に降りますと川辺さんが立つておられましたので、昼の状況を一応川辺さんに報告しました。帰ろうとすると盛康さんが茶色の一枚封筒の半分切つたものを差出されたので私は何か手紙だろうと思いそれを受取り別れて我が家で開いて見ますと六百円が入つておりました」旨の供述(昭和三十年五月八日附被告人に対する司法警察員作成の供述調書記録六十丁表以下参照)検察官に対する「四月十三日の朝事務所に行つたところ、川辺盛康さんから田代方面の情報を聞いて来てくれとたのまれ承諾しました。自動車賃だと言つて同人から三百円貰つて行きました……中略……夕方事務所に行き松元佐兵衛さんにその事を話したら松元さんは『そんな事ではどうにもならんもう一度行つて来てくれ』と言われるので『行つて来ませう』と返事をしたような次第です。その後で松元さんは千円札一枚を下さいました。帰ろうと思つて土間を出たら川辺盛康さんが居られたのでその日のことを報告したところ又川辺さんが封筒入りの六百円を下さいました』旨の供述(昭和三十年五月二十二日附被告人に対する検察官調書記録六八丁表以下参照)及び公判廷における「私は起訴状記載のとおり松元佐兵衛、川辺盛康の両人から三回に亘つて現金千九百円を受取つたことは事実であります」旨の供述(記録十六丁表参照)の補強たりうるに拘らず原判決が前記の如く結局犯罪の証明がないとして無罪の判決言渡をなしたのは、事実を誤認したものというの外はない。

第二、原判決は刑の量定が軽きに失し不当である。

即ち原判決は「被告人は昭和三十年四月二十三日施行の鹿児島県議会議員選挙に際し肝属郡より立候補した浜崎隼人の選挙運動者であるが、松元佐兵衛、川辺盛康が同候補に当選を得しめる目的で投票取まとめ費用及び運動報酬として一括供与するものであることの情を知りながら(一)同月十三日頃の午前十時頃同郡大根占町馬場、右浜崎候補選挙事務所において川辺盛康より現金三百円の供与を受け、(二)同日頃の午後八時頃前同所において松元佐兵衛より現金千円の供与を受けたものである」事実を証拠に依つて認定し「被告人を罰金五千円に処する。被告人より金九百四十円を追徴する。被告人に対し公職選挙法第二百五十二条第一項所定の五年間選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用しない。」旨判決言渡をなした。然れ共も、(一)日本国憲法は、所謂主権在民の理を明らかにすると共に、其の行使の方法として前文冒頭に於て「日本国民は、正当に選挙せられた国会における代表者を通じて行動」するものであることを宣言した。茲に所謂「正当な選挙」は公正の担保せられた選挙の謂であつて、然らざる選挙は日本国憲法の期待する「正当な選挙」と云うを得ないこと敢て言を要しない。此の理は国政に関する代表者、つまり衆参両議院議員の選挙と、地方公共団体の長、その議員の選挙との間に何等の逕庭の存する理はないのである。(二)公職選挙法は、同法第二二一条乃至第二二三条に於て所謂買収事犯等に関する罰則を規定したのであるが、所謂買収犯罪の本質は金銭その他の利益を以つて選挙人が主権行使の方法として行う投票を左右し若くは、左右せんとする行為であつて、選挙の公正を阻害し、日本国憲法の「正当な選挙」への期待を本質的に覆すものである。然るが故に公職選挙法は、所謂買収犯罪に対し厳罰を規定すると共に第二五二条に於て、他の選挙犯罪と共に買収犯罪者に対し一定期間その公民権の行使を停止するの措置を講じたのである。蓋し同条第一項の罪はいずれも、選挙の公正を害する罪であつてこの罪の処刑者は現に選挙の公正を害したものとして、選挙に関与せしめるに不適当と認め一般犯罪の処刑者の公民権停止に比し特に厳格に一定期間選挙から排除するを相当と認めたのである。然も、同条の法意は、同条第一項の罪につき有罪判決の言渡ありたるときは、当然自動的に同条第一項所定の公民権停止の効果を発生する趣旨であつて、斯る法律効果の発生を特に緩和するを相当とするに足る合理的理由の存する場合に限り同条第三項の適用を容認したものであることは同条全体の趣旨に照し明白である。(三)原判決は、被告人が四月十三日頃松元佐兵衛、川辺盛康から現金六百円の供与を受けた事実について無罪の判決言渡をなしたのであるが、其の失当なること前記説明の通りであり、結局被告人は松元佐兵衛、川辺盛康から三回に亘り現金合計千九百円の供与を受けたものであつて受供与額必ずしも少額と言うを得ないのみならず、(イ)本件犯行の動機は、被告人は予ねて、浜崎候補並に松元佐兵衛、川辺盛康と知合の間柄であつたところ(昭和三十年五月八日附被告人に対する司法警察員作成の供述調書第八項記録五八丁裏参照)四月十三日頃同候補の選挙事務所から招かれて同所に到り川辺盛康から隣村田代村方面における選挙運動方依頼せられて之を承諾し、その報酬並にバス賃として松元佐兵衛、川辺盛康から三回に亘り現金合計千九百円の供与を受けるに至つたのである。(前記被告人に対する司法警察員並に検察官作成の各供述調書参照)(ロ)被告人の運動内容を検討するに被告人は四月十三日及同月十五日の二回に亘り田代村に赴き何れも対立候補の警戒網を潜つて運動に努め其の都度その結果を選挙事務所に報告したことが認められる。(前同供述調書参照)(ハ)受供与金合計千九百円の使途を見るに、前記の如く二回に亘り田代村に赴きバス賃合計百六十円、昼食代合計二百円を支出した外残余は総て被告人の所得に帰したのである。(前同検察官調書参照)本件犯情は叙上の通りであつて、原判決が被告人に対して言渡した罰金刑の額は甚だ軽きに失すると共に、公職選挙法策五二条第一項の適用を特に排除するを相当とする合理的理由は全く存しないのであつて原判決は刑の量定が不当に軽きに失するものと信ずる。

第三、原判決は、法令の適用に誤りがあつてその誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。即ち、原判決は前叙の通り被告人が「松元佐兵衛、川辺盛康が同候補に当選を得しめる目的で投票取まとめ費用及び運動報酬として一括供与するものであることの情を知りながら」二回に亘り現金合計千三百円の供与を受けた事実を認定し公職選挙法第二二四条後段を適用し「被告人より金九百四十円を追徴する」旨判決言渡をなした。

然れ共、公職選挙法第二二四条の法意は、選挙運動の報酬及び実費が、其の割合の定めなく包括的に授受せられた場合は、その収受を受け、又は交付を受けた選挙運動者から其の全額を没収し、その全部又は一部を没収することができないときは、その価格を追徴することを規定したものと解するを相当とするところ、本件記録を検討するに、被告人が三回に亘つて夫々現金三百円、同千円、同六百円の各供与を受けるに当り、所謂選挙運動の報酬とその実費との割合を定めて供与を受けたものと目するに足る証拠は全く存しないのであつて、前掲被告人に対する司法警察員及び検察官各作成の供述調書並に昭和三十年五月二十八日附松元佐兵衛に対する検察官調書(謄本)第三項(記録七九丁裏参照)同日附川辺盛康に対する検察官調書(謄本)第三項(記録八六丁裏参照)の各記載に徴すれば、何れも選挙運動の報酬と所謂実費を其の割合を定めることなく包括的に供与せられたものと認むべく、然るが故に原判決も亦措辞聊か要を得ない憾あるも「投票取まとめ費用及び運動報酬として一括供与するものである」旨を認定したのである。然も被告人が供与を受けた右現金合計千九百円は、バス賃並に昼食代として支出した合計三百六十円を除き全額被告人において費消し、供与者である松元佐兵衛、川辺盛康等に返還した事実は存しないのである。(前記被告人に対する検察官調書参照)

惟うに、原判決は被告人が供与を受けた金額からバス賃並に昼食代として支出した合計三百六十円を控除しその残余をもつて公職選挙法第二二四条に所謂「収受し又は交付を受けた利益」と解したものと思料するのであるが斯る見解は同条の解釈を誤つたものというの外はない。

被告人姫城源四郎の弁護人徳田禎重の控訴趣意

第一点本件につき弁護人から提出した被告人浜崎隼人外八名に係る第一回公判調書及び起訴状別表によれば検察官は本件起訴金額中には選挙運動の実費も含んで居ることを認め只実費と報酬は不可分の関係にあるので一括して報酬として起訴したものであることを認めて居るのである。而して本件につき証人として尋問を受けた被告人に金員を渡した松元佐兵衛等の証言によれば事務所所在地大根占町を離れた遠隔の地に出張して運動をするのであるから自動車賃弁当料及宿泊料等を考慮した実費として渡したものなることを証言して居るのである。尚又被告人自身も実費として受取つたものであることを主張し若し過不足あるときは後日計算すべきものであるが金を渡した事実上の出納責任者松元佐兵衛、川辺盛康等が投票日直後鹿屋警察署に拘束を受け其暇が無かつたことを主張し又受領金額では実費にも足りなかつたことを主張し且つ証人等を以て立証したのであるが原審判決は本件のみならず全部の運動員に対し(前記弁護人提出の起訴状記載の別表参照受)領した金額は一括して全額に付受供与罪として判決をされたのである。然れども被告人等が前渡しを受けた金額は不可分のものに非ず検察官が不可分なりと主張するは捜査が不充分だからであつて之を他の犯罪と同様に金銭の使途につき親切に捜査を遂げるに於ては其金銭は実費即ち往復陸路の交通費、弁当料、宿泊料等を差引き所謂報酬と認むべきものがあれば其分につき起訴をするのが国民を処罰するにつき執るべき検察官の職責である。然るに手数の係る事情もあるから弁護人に於ては其実費につき証人を以て立証したのである。又運動員の出張先及び其交通費については当初金銭を渡した松元佐兵衛等の公判廷に於ける証言のみならず検察庁に於ける供述によつても明瞭である。而して遠隔の地に往復しての運動であるから尠なくも交通費が幾何を要する位のことは鹿屋区検察庁及び鹿児島地方裁判所鹿屋支部の管内の出張運動であるから検察庁及び裁判所に於ても顕著なる事実として認めらるべきである。然るに原審判決は起訴状記載の金額につき一括供与を受けたものとして全額につき処罰したるは公職選挙法第百九十七条の二の規定に違反したるものであつて事実誤認の判決であるから破棄さるべきものと信ずる。尤も最近に於ける最高裁判所の判決に於て実費と報酬との割合が明かで無い場合は一括処罰しても違法で無いとの判決はあるが之は即ち明かで無い場合の判断であつて当初から尠なくも交通費弁当料の如きは明かであるにも不拘検察官は其顕著な事実を無視して起訴したため弁護人は其実費につき立証したのであるが原審判決は起訴当時実費と所謂報酬の割合が明かで無いから全額につき処罰したのであるか立証はしたが弁護人の立証を措信せず当初の起訴金額につき処罰したのであるか明瞭で無いのは理由不備の違法がある又若し金銭授受の際其実費及び報酬の割合明かで無い場合(尠なくも交通費弁当料は明かである)後日被告人の立証に依り宿泊料等につき明かになつても其分につき犯罪を阻却しないとの原審裁判官の意見かとも思われるが前記最高裁判所の判例は金銭授受当時明瞭で無くとも判決当時明瞭であれば其分については罪を阻却する趣旨であると解すべきであると信ずる何となれば凡ての犯罪は審理を遂げて初めて其罪責が明確になるのであつて公職選挙法違反事件のみが審理前の証明の無かつた事実について処罰せらるべき筈が無いからである若し被告人等が金銭を受取つた時実費と所謂報酬と認めらるべき分との区別が明かで無いとして全額に対する罪責を受くべきものとすれば其実費に対する立証権を剥奪する結果を生ずるものと謂わなければならぬ右は公職選挙法第二百二十一条第一項第一号に規定しある金銭物品其他の財産上の利益なる文句に違反することにもなる何となれば運動者が財産上の利益を受けた分について罪責があるのであるから例えば千円を受取り金二百円の自動車賃を支払う場合残り八百円が右の金銭中利益の供与となるのであつて右二百円については利益の供与に当らないのは常識上当然の解釈である。

第二点原審裁判官は判決宣告の際(判決書には証拠の標目のみを掲げ判決理由を省略してあるも)被告人等に対し選挙に関する金銭の授受は出納責任者の承諾を得且つ之を出納簿に記載し領収証を徴さなければならぬ然るに本件のみならず浜崎候補の運動員に対する支出は右の手続を経て無い又被告人等が運動のため旅行をしたことも認むるが果して正当の運動をしたか不明であるとの判決に対する理由を宣告されたのである前記の如き出納上の手続を経ない場合には違反として法第二百四十六条第一項第四号及び第五号を以て処罰さるべきものであつて右処罰規定に該当する金銭の授受が全部本件の法第二百二十一条に違反する行為と認むるは立法の趣旨を誤解した判断である即ち右法第二百二十一条は実質的の買収行為を法第二百四十六条は形式上の行為を処罰する規定であつて右形式を経ない金銭の授受を買収行為と看做すならば殊更に法第二百四十六条第一項第四号第五号の規定を設ける必要無く事実上右手続を経ない金銭の授受中にも買収犯に該当せない場合があるからこそ右の如き形式上の違反行為を処罰する規定を設くる必要があつたのである叙上の如く出納責任者が前記の如き手続を経ないで被告人等に対し運動費を渡し領収証も取らなかつたとすればそれは被告人等に金銭を渡した者が右形式上の違反行為に該当するのであつて被告人等の責任ではない又被告人等が宿泊料等の領収証を徴して出納責任者に送付しない場合は右法第二百四十六条第一項第五号によつて処罰すべきであつて被告人等が右の如き手続を怠つて居つたから直ちに法第二百二十一条の金銭上の利益の供与を受けたものとして処罰するのは事実誤認である。又被告人等が選挙運動の為旅行したことも認めるが果して正当の運動をしたか否か不明であるから之は受取つた金銭全部につき利益の供与を受けたものとの感想は刑事訴訟法上の立証責任の錯誤である何となれば遠隔の地に出張して選挙運動のために交通費、弁当料、宿泊料等を要したとすればそれは検察官から有権者の投票買収其他不正なる選挙運動であることの立証無き限り正当運動の支出と認むべきものであつて前記の如く感想の下に事実を認定するのは立証責任を誤解したる即ち事実誤認の判決である。本件鹿屋警察署刑事係に於ても選挙運動員が出納手続を経ないで金銭を授受した場合は買収行為と看做し被告人等を逮捕して来たとき被告人等に対し先ず以て運動のため金員を受取つたか否かを詰問し受取つたが運動の実費として受取つたものなることを主張したのに対し然らば領収証を出したかと追及し領収証は出して無いと言つた場合それなら報酬として取つたのでは無いかと難詰さるれば選挙法を理解しない被告人等は領収証を提出して無い場合は刑事係の主張通り違反であることを認識し(第二点冒頭記載の如く当然法第二百四十六条第一項第四号及び第五号違反に該当するから)取調官の主張通り報酬として貰いましたと同調したことになつて居るのである只公判廷に於ては実費と報酬の区別を認識して警察検察庁の供述を変更することに為つたのである。元来公職選挙法の規定の沿革を検討するときは警察官が前記の如く選挙に関する出納上の手続を経て無い運動員に対する金銭の授受は法第二百二十一条の金銭上の利益を供与したものと即断するのは已むを得ないものと思われるのである何となれば従前は選挙運動員に対し茶菓を供することのみを認め弁当等を供することも禁じてあつたが其後弁当は供しても宜いことに改正され更に昨年の選挙からは弁当料、茶菓料及び交通費等支弁の為め現金を交付し得ることとなつたので只其手続上の違反として処罰さるべきものであるのを考慮せず警察吏員に於て供与罪の違反として難詰するに至つたのである。前記浜崎隼人外八名に対する第一回公判廷に於ける検察官の釈明にもある通り出納責任者が正当の手続により選挙運動者に対する運動費の前渡は認めて居るのである然らば其手続を経ないで渡した場合如何なる違反になるかを考慮するに矢張り形式上の違反であつて実質的に実費として授受したものが供与に変ずることは無い筈である。叙上の如く裁判官は判決書には只証拠の標目のみを掲げ判決宣告の場合第二点冒頭記載の如く判決の理由として宣言されたのみで別に記録上顕われていないが右は事実であつて警察検察官に於て裁判官同様に出納責任者の手続を経ないで運動員に対し支出したる金銭は供与罪に該当するものとの慨念の下に取調の上起訴したるものなることは被告人及び証人に対する警察検察庁に於ける取調のみならず公判廷に於ける尋問に於ても必ず領収証を取つたか又は出したかを尋問してある記録によつても推断することが出来るものと信ずる。

第三点原審裁判官は第二点記載の通り判決の際宣言された外に被告人等の罪責に対して説明して曰く金千円を受取つた場合其内百円が報酬に当るならば残り九百円が交通費宿泊料弁当料等に該当するとしても千円全部につき罪責があるのであるとのことであるが右は公職選挙法第二百二十一条第一項第一号に金銭物品其他の財産上の利益なる文句に違反するものと信ずる何となれば選挙運動員に利益を供与した場合が其額丈の供与罪に問わるべきである即ち金銭物品とは利益につき例示したに過ぎない運動員に利益を与えることを禁じたのである然らば遠隔の地に出張して選挙運動を為す場合其交通費、宿泊料等を要する場合之等の費用は運動員の利益に這入らないことは常識上当然である例えば裁判官が例示された右金一千円の内九百円は運動員の利益にはならないのであるから右法第二百二十一条の金銭の利益を受けたものと謂うことは出来ない、只最近の最高裁判所判例の説明せられる如く報酬と運動費の割合が明かで無い場合は全額につき処罰せらるべきも裁判官の例示せらるる如く報酬は百円で選挙運動費が九百円と其割合が明かになつた場合は百円丈について処罰を受くべきものと信ずる事実上本件裁判官が右例示の如き趣旨の下に被告人等を処罰されたことは浜崎候補の選挙運動者として起訴され判決を受けた約四十名全部実費につき立証を遂げたるも其判決は実費に対する証拠の有無に不拘一二名を除き当初受取つた全額につき違反として判決された記録上明瞭なる事実について推断するときは原審裁判官は冒頭例示の通りの解釈によつて判決されたことは明瞭である仍而右は法第二百二十一条の解釈を誤つたものであつて破棄を免れないものと信ずる。

第四点本件被告人等は浜崎候補の人格を敬慕し又は家と家との祖先伝来の縁故から自ら進んで選挙運動をした者であつて決して其投票権を売り又は選挙運動の報酬を貰う為に運動に従事した者で無いことは弁護人の弁論要旨に記載した通りである然るに検察官に於ては被告人等が其投票権を売り又は運動の報酬として金銭の供与を受けたものとして起訴したことは起訴状に明記してある通りである裁判所は其判決に投票の報酬を受けたことは之を認めず只選挙運動費と報酬を一括供与を受けたものと認められたことは判決に明瞭である。元来被告人等に本件金額を渡した松元佐兵衛、川辺盛康等は被告人等の出張先の距離日数を考慮して交通費弁当料等を勘案して交付したことは同人等の証言及び供述に明瞭である又所謂選挙プローカの介入を排斥したことも記録上明瞭である右事実上の出納責任者がブローカを排斥して被告人等に運動を依頼したのは被告人等が決して報酬を目的として働らく者で無いことを確信してのことである旧選挙法に於て運動員に対し弁当料として一定の金額を支給する規定の無かつた際は運動員が弁当料に該当する金銭を受けても処罰せらるるから正当の業務を持つて居る者は選挙運動にはかかり合わないのであるから勢選挙ブローカなる者が裏面に於て暗躍し其弊害甚しきものがあつたことは国民周知の事実である此の弊害を矯正する為選挙法は法第百九十七条の二を追加し正当業務者と雖も其信念に基き正当の費用即ち弁当料等の交付を受け選挙運動に従事することが出来る様になつたのである然るに原審判決の如く千円中九百円が実費であつても百円が報酬に該当する場合右千円に対して処罰せらるる判例ありとすれば千円の内百円位の違算等のありたる場合(選挙の場合特に多忙である時百円位の違算は有り勝である)千円全部について処罰を受くるものとせば折角の選挙ブローカ排斥の名立法も逆転してブローカの暗躍は選挙から除くことは出来ないのである現に本件浜崎候補に関する選挙違反については昨年四月二十三日投票日前から次々と被告人等が拘束又は呼出しを受け鹿屋警察署刑事係の意向通り同調しないものは毎日三四人宛拘留に処せられ右浜崎候補の運動員は全部起訴され本件の如き判決を受けたので選挙に関し所謂素人が其信念に基き選挙運動を為す場合と雖も不慣のため拘留を受くる危険の虞があるので回避するに至るは必定であつて一度今回の如き違反に問われたるものは選挙に無関心となり勢選挙ブローカがバツコすることになるのである。本件事実上の出納責任者が領収証を徴しなかつたのは選挙法の趣旨を正当に理解せずして只従前の伝統により運動員に対して金銭を授受した点もあるが、尚従前選挙運動員は十五名に限定せられ然かも其氏名を届出ることになつて居つたので今回の選挙から其制限を撤廃したことの趣旨を理解せず届出の十五人以外(届出る必要が無くなつたことを知らず)は違反になるものとの従前の法規にとらわれた潜在意識の下に領収証を徴しなかつた点もあるものと考えらるるのである豈図らんや一日十五名宛二十日間には三百名の運動員を動員使用することが可能であつたのである。又弁当料の支給についても一日三百円は支給し得たのであるが警察検察庁に於ても法第百九十七条の二の実費弁償の規定を狭義に解釈して運動員を一日使用した場合運動員が其自宅で食事をした場合は弁当料の授受が出来ないものの如く解釈し其取調聴取書中にも散見する如く弁当は自己のものを食べたか自己の弁当を食べたら費用は要らざるに非ずやとの問答あるによつても窺知することが出来るのである右の如き解釈は法第百九十七条の二第二項を検討するときは右警察当局の解駅は誤であると考える何となれば選挙事務所に於て三食(一食五十円程度)を支給した場合は何等弁当料を支給する筈無きに不拘残り百五十円を支給することの規定から推して考慮するときは弁当料なるものは運動員が食べても食べないでも一日金三百円は支給して差支え無いものと解釈しなければ右法第百九十七条の二の規定は無意義の規定となるからである又一般公務員調停委員の日当支給から類推しても右の如く解すべきである。

第五点原審判決は判決理由中に証拠の標目のみを掲げ前記第二、三点に記述する通りの判決理由を判決書に記載の無いのは理由不備の違法があるものと信ずる刑事訴訟法第三百三十五条第二項には「法律上犯罪の成立を妨げる理由云々之に対する判断を示さなければならない」とあるが本件に於て被告人及び弁護人は金銭の授受は実費を受取つたものであるから犯罪は成立しないことを主張し以て其立証を遂げたのである然るに只標目のみを掲げる場合は裁判官が前記第二、三点記述の如く有罪の説明が無ければ判決書に記載無き以上如何なる解釈の下に無罪又は減刑の主張を排斥せられたか又弁護人の立証は措信されないのか措信されても選挙法の解釈上無罪を排斥されたのか不明である右の如き場合に於ても証拠の標目丈を掲げて差支え無いものとすれば右刑訴法第三百三十五条第二項の規定は何のために設けたのか其意義を解するに苦しむものである果して然りとせば原審判決は破棄さるべきものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例